2009-11

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米国経済構造の欠陥(1): 前田 正晶

米国経済構造の欠陥(1): 前田 正晶

2009/01/08 01:29
               
アメリカ企業社会には階級ないしは階層がある。アメリカの製造業の会社には営業・経理・総務・法務・企画・技術本部・研究所等のサラリー制の俗に言うホワイト・カラーの社員と、生産現場にいる時間給(アワリー)のブルー・カラーの労働組合員が全く別の組織として分離されている。これがアメリカ製造業の最大の問題点の一つだ。

敢えて問題視する理由は「日本の組合員とは違って、アメリカの組合所属の労働者は余程のことがない限り会社側の社員に身分が変わって地位が垂直上昇することはない、つまり日本式の段階的出世はない」にあります。

一度組合員となれば事務所で働く社員にはならない、なれないということです。しかし、組合員は組合内では年功序列で時間給は増えていきますから、長く勤めていれば会社側の社員の下のクラスと比較しても遜色がない給与にはなります。

しかも無理をせずその場に安住していれば、組合は法律で保護されている団体ですから、非常に安穏に暮らしていけるのです。

従って、この身分の人たちは技能の向上には非常に熱心な人もいれば、余り上昇志向のない人たちもいるという具合です。この点は上昇志向が高い社員とは違います。このような会社側と組合員の違いが極端に言えば、現在大問題化しているビッグ3の破綻の問題にもつながっている。

短期で結果を出す。最近日本もアメリカ方式を取り入れて四半期毎に決算を発表するようになりました。私はここに問題があると見ています。

すなわち、アメリカの経営者や各事業部門の責任者は、短期に結果を出すことを要求されるのです。彼らは自分が担当し責任を持っている部門の在任期間中に、資金を固定する結果だけに終わるかも知れない、または確実に利益が上がるという見込みがないような設備投資は先ず回避する。

短期で利益を上げなければ直ちに責任を問われますから、長期的な視点に立って事業の運営をしなくなる嫌いがあります。勿論、全部がそうではありませんが。その反対に、短期間に結果を出して業績を伸ばせば、給与も地位もめざましく上がるということになります。

私は彼らの方式を狩猟民族的手法と呼び、より長期的な視点に立つ日本式を農耕民族的としました。

設備の近代化投資の遅れ。アメリカではその事業部門から計画通りの利益が挙がらない限り、拡大のための投資をしないという経営なので、結果として生産設備の近代化が遅れてしまったメーカーが多くなってしまいました。

最近ある製紙会社が合理化を図って古い抄紙マシンを廃棄したのですが、何とそのマシンは1946年、すなわち昭和21年に導入されたものだったのです。

利益が上がらなければ投資しない、投資しないから設備が古くなる、その結果、質の良い物ができない。解りやすく言えば、このような近代化の遅れが、世界でアメリカ製品の品質が諸外国で評価されず、地位が落ちてきた原因の一つです。

生産者主導の市場。一般的にバイヤーズ・マーケットとかセラーズ・マーケットと言いますが、私に言わせればアメリカはプロデューサーズ・マーケット(Producer’s market)とでも呼びたい、いわば生産者主導市場なのです。

メーカー側が自社の生産効率が上がるようなスペックを作って、その通りの物を作って、「さあ買え、厭なら他へ売るまでだ」というのがアメリカの販売法なのです。

大量生産・大量販売の方針ですから、消費者側の細かい要求を取り入れたスペックを設定すれば生産効率が上がらないと判断した結果でもあります。

それに市場というか消費者が、日本と比較すれば遙かに品質に対して寛容ですから、我が国では到底お買い上げ頂けないような製品でも(例えば一頃のアメリカ自動車もそうですが)立派に通用する市場であり、それが消費者の購入基準なのです。

その市場に我が国の自動車、工作機械類のような高度な品質を備えた輸入品が入ってきたのですから、アメリカの製造業が衰退する大きな原因となってしまったのです。

そして、労務費が高くなってきたことも経営者にとっては大きな負担でした。労働組合員は法律で保護された強力な存在ですから、簡単には人員整理ができません。毎年時間給を改訂していかなくてはならなかったのです。これが、空洞化を招いた一因ともなりました。

個人の能力に依存。この点も我が国との大きな違いでしょう。アメリカの企業には日本のようにティーム・ワークだとか、部課の単位で一丸となって働こうという思想は基本的にありません。チームではなく個人の単位で、故人の力で運営し、経営されています。

ですから、少数の優れた者が副社長以上に就任し、その能力で各事業部門から会社全体を引っ張っているのがアメリカ式なのです。また、各事業部でもマネージャーという名の担当者がそれぞれの担当分野を持って責任を果たしていきます。この点が日本と大いに違うところだと思います。

コンプライアンス。ここで申し上げたいことは、厳格な独占禁止法=Antitrust laws(アンタイ・トラストと発音するようです)の遵守です。

アメリカでは独占禁止法の縛りが非常に厳しく、私の経験では年に1度、独占禁止法に触れた行為ないしは行動をしなかったかと、法務部から調査の書類が来ました。

そこには「得意先の株を持っていないか」「親族が同業に勤めていないか」「親族が得意先に勤めていないか」「同業他社の人間と交流したことがないか」「同業他社の工場を訪問しなかったか」など2ページほどの“イエスかノーか”で答える質問項目がありました。

それに一つでもイエスがあったならば、直ちに上司に届け出なければなりません。アメリカでは得意先の株を持つと言うことは×なんです。それがアメリカの独禁法の厳格さなのです。

そういうコンプライアンスに縛られていますから、同業他社の社員とホテルなどの公共の場で出会っても迂闊に握手や挨拶をしてはならないのです。

もしもその場を何処かの共通の得意先の関係者に写真に撮られたら、「あそこで彼が○○社の××氏と価格の談合をしていた」という証拠になりかねないのです。最悪の場合、訴訟されて即逮捕、裁判となります。その場所に弁護士がいて、談合をしなかったという証明をしてくれない限り、2人とも投獄なのです。

この法務部からの調査の全項目を否認してサインするのです。だがそこには「もしも虚偽の申告をしていたと判明した場合は馘首されても異議を申し立てません」との項目があります。私はこういった制約が社員の世間を狭くしていると見ていました。

ですから、アメリカのビジネスマンは同業他社の情報を余り持っていません。ある程度は証券会社の報告書や年次報告書等から入手出来ますが、何を聞いても日本ほど答えられません。いや、知り得るわけがないのです。(以下次号)

「頂門の一針 知る人ぞ知るメルマガ『頂門の一針』のブログ版」より転載
http://chomon-ryojiro.iza.ne.jp/blog/

テーマ:政治・経済・時事問題 - ジャンル:政治・経済

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